我が子が通う保育園は,研究所に併設された私立園。世界各国から集まる研究者たちの子どもたちが通っており,実に国際色豊かです。
ただその反面,親の任期に伴い子どもたちの出入りも激しく,「ずっと一緒にいられる」関係性が築きづらいのも事実。我が家もまた,その“流動的な人間関係”の渦中にいるひと家族です。
そんな中,娘がKindergarten groupに進級してすぐ,ある特別な存在と出会いました。
誕生日も近く,背丈も似ていて,好きなものもそっくり。最初からまるで長年の友人だったかのように,娘と彼女は自然に寄り添い合いました。娘は,誰とでも広く遊ぶタイプではなく,気の合う特定の子とだけ深くつながるタイプ。
彼女は,そんな娘にとってまさに「親友」でした。
言い争ってもすぐに仲直り。いつも一緒に遊んでいるわけではなくても,同じ空間にいるだけで安心する——まるで長年連れ添った夫婦のような,不思議と心地よい関係。
けれどその親友は,私たちが年末年始に日本へ一時帰国している間に,突然イギリス・ロンドンへ本帰国してしまったのです。
お互いのタイミングが合わず,「ちゃんとしたお別れ」ができないままの別れ。
日本滞在中にその事実を知った娘は,号泣しました。その姿に,母である私も思わずもらい泣き——でも,心のどこかで「子どもの友情なんて,すぐ新しいものができるよ」と軽く思っていたのも事実です。
行き渋りの毎日。数ヶ月のトンネル
保育園が再開しても,親友のいない教室は,娘にとって空虚なものになってしまったようでした。
誰と遊べばいいのか分からず,自分から新たな関係を築こうともしない。
朝のドロップオフは,毎日が戦い。
泣きはしないものの,不機嫌。あるときは悲劇のヒロインのように感情を露わに。毎日,教室の前に行くと,親にしがみつく娘。先生が優しく引き剥がしても,手足を絡めて離れようとしない——そんな日々が,1ヶ月,2ヶ月,そして気づけば5ヶ月も続きました。
日中も,クラスの子達と関わりを持とうとせず,ジェットコースターのような感情のアップダウンもあったようです。保育園の担任との面談でも,娘の素行について何度も話し合い,「自信が足りないのでは?」と指摘され,テコンドーやカポエイラなどのアクティビティ参加を勧められるほど。
でも,私たち夫婦にはピンときませんでした。
どちらかといえば,身体で表現するダンスやバレエの方が,娘の性格には合っているのでは……?と,モヤモヤしたまま,状況だけが続いていきました。
「会いたい」気持ちに,まっすぐ応えることにした
何度も「親友に会いたい」とつぶやく娘。
その言葉に,私たちもようやく心を決めました。
「じゃあ,会いに行こう。」
5月,私たちはロンドンへ飛びました。
再会のための4泊5日。そのうち週末の2日間は,丸々親友家族と一緒に過ごす予定を立てました。
公園で半日,一緒に遊ぶだけ。豪華なプランなんて必要ありません。
ただ,同じ時間を過ごすこと。それがすべてでした。
何週間も前から,娘は指折り数えてその日を心待ちにしていました。
親友と交わすビデオメッセージ。日に日に高まる再会へのワクワク。
そして——
再会,そして「ちゃんとしたバイバイ」
いよいよ当日,再会の瞬間。
あまりに嬉しすぎて,どうしていいのか分からなかった娘と親友は,2メートルほど離れた場所で謎に踊り出しました。
感情が大きすぎて,抱き合うことすらできなかったのです。
けれど,すぐに子どもたちの世界が戻ってきました。
笑い合い,遊び合い,走り回るふたり。
数ヶ月ぶりに見る,娘の心からの笑顔に,親として胸がいっぱいになりました。


2日目はロンドン交通博物館へ。
展示に目を輝かせつつ,でもやっぱり大事なのは「一緒にいること」だったようです。


帰り際,私たち親は正直,別れが大変になると予想していました。
泣きわめいて,離れたくないと叫ぶ未来を覚悟していたのです。
ところが,ふたりは笑顔で手を振り合い,きれいに「バイバイ」ができました。
あぁ,きっとこの子たちは,
“お別れができなかったこと”が,ずっと心の中でひっかかっていたんだな。
その瞬間,すべてが腑に落ちた気がしました。
帰ってきた娘は,もう違う顔をしていた
ドイツに戻ってからの娘は,見違えるように変わりました。
行き渋りがぱったりと止まり,自分から新しい友達と関わろうとするようになったのです。
時には,ひとりで過ごす時間も大切にし始めて。
あれほど口癖のように言っていた「親友に会いたい」も,今では「元気にしてるかな?」に変わりました。
娘なりに,ようやく“前を向く”準備ができたのだと思います。
子どもにも,ちゃんと「大切な人」がいる
この経験を通じて,私たち親が学んだこと。
「子どもの友情はすぐ忘れる」と軽く見てはいけないということ。
大人が思う以上に,子どもたちは深く,強く,誰かと心を通わせています。
だからこそ,大切な人に会いたいという気持ちを,ちゃんと尊重してあげたい。
今回,娘の声に応えてロンドンまで行ったこと。
それは,娘の心を癒し,また歩き出すための大きな一歩になりました。
これからも,娘が「この子と一緒に遊びたい」と言ったなら。
「ただの子どもの付き合い」と決めつけず,できる限り寄り添っていこうと思います。
おわりに
あの時,「バイバイ」ができなかったふたり。
ようやく叶った「またね」の再会は,娘にとっても,私たち家族にとっても,一生忘れられない時間になりました。
大人も子どもも,やっぱり大切なのは,
大切な人と,ちゃんと会って,ちゃんと気持ちを伝えること。
それが心の支えになり,前を向く力になる——そう実感した旅でした。







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